2016年12月1日木曜日

i☆Risという向こう岸

11月25日金曜日、日本武道館を埋めた観客とそのステージに立つi☆Risを見て、虚心にうらやましいと思った。目視で正確に数えられるほどしか客の来ないデビュー当時から四年で武道館にまでたどり着くという、できすぎなぐらいのサクセスストーリーに。
i☆Risがプリパラという作品を得たことで大きく力を得ることになったというのは周知のとおり。だが売ろうというバックヤードの努力に応えるのも並大抵なことではない。アンコール後のMCでメンバーがi☆Risというグループは必ずしも志望する道ではなかったということを涙ながらに述懐できたのは、彼女たちが成功したからこそだ。
衒いなく素直な直球を投げ込んでくることができるのもうらやみたくなる理由でもある。声優であるからこそ、正統派のアイドルを「自然に」「演じる」ことができる。小さな差異にやたらと意味づけをしようとする態度とは正反対のものだ。そこにプリパラで開いた、実年齢よりも若い歌詞の世界観を表現できるという境地が加わるから、さらに立派なアイドルだなあと思う。ここまで立派だと客席の自分は距離感について考える必要がなくなる。ただのオーディエンスとして眺めていられるという安心感。
金曜日にもかかわらず武道館は満員と言って差し支えなかった。今後メンバーの出身地のホールを中心とした全国ツアーが開かれる。無理をした最初の武道館が結果的にキャリアハイになってしまう心配もない。
いちばんうらやましいのは、この成功譚に伴走できたファンかもしれない。物語はまだ続いていくだろう。自分はもはやそんな体験をすることはないだろうという根拠の不確かな諦念がある。同じような風景だった向こう岸の町が、みるみる発展していくのを眺めているようだ。もっともこちら側も流れる時間は同じだ。